キッチンは家族団らんを楽しむ大切な場所です。楽しいひと時には美味しい食事が欠かせませんが、料理を作ることは意外に重労働なのです。吊戸棚から調理器具を出すだけでも一苦労しますので、意外なバリアが隠されています。
もし使いにくさを感じているのであれば、ケガや火傷を防ぐためにも、バリアフリーのキッチンに改修しましょう。この記事では、リフォームを前提としたキッチンのバリアフリー対策を紹介します。使いやすいキッチンにするための参考にしてください。
キッチンをバリアフリーにする目的
キッチンのバリアフリー化は、車椅子で使えることを前提としています。全ての調理作業が、座ったままで負担なくできるように、様々な工夫が盛り込まれています。
食事を作る楽しみと喜びをサポート
料理好きの人は、自分の作った食事で喜んでもらうのを一番楽しみにしています。美味しい食事を作るためにキッチンで奮闘する姿は、有難くもあり微笑ましいものです。ですから、料理を作る喜びが身体能力の低下で失われないために、キッチンをバリアフリー化するべきです。
調理のストレスは料理の仕上がりを左右します。納得できない仕上がりでフラストレーションが溜まると、作る気力が失せてしまうでしょう。よって作る人と食べる人の喜びと笑顔のためにも、安心で安全に調理できるバリアフリーのキッチンが必要なのです。
水周りを使いやすく
キッチンのバリアフリーで、水周りの対策は重要なポイントです。食材を洗うだけでなく、食事の後片付けでも頻繁に使いますので、座ったままの状態でカンタンに作業できるように、シンクの下に空間を設けます。
車椅子に座った状態で手の届く範囲は、前方60cm、側方75cmと基本寸法により定義されています。したがってシンクの奥にある蛇口レバーは、シンクの前面から60cm以内に設置するといいでしょう。
調理作業の負担を軽減
料理は下ごしらえに多くの時間を割かれるので、キッチンのバリアフリーでは調理台の高さに重点が置かれています。食材を楽にカットできることや、コンロに置いたまま加熱中の鍋をチェックできるなど、座った状態でも負担なく調理できる配慮が必要です。なお電動でカウンターが昇降するキッチンを採用すれば、使う人によって高さを変えることもできます。
また従来は上部に配置されていたキッチン収納も、高さや収納場所を変えるように工夫すれば、調理器具の取り出しが楽になります。
煮炊きのしやすさと安全性
安心して調理できる環境づくりにおいて、一番配慮したいのは火を使うコンロ周りの安全性です。大火力の調理は料理の味や見た目が良くなりますが、反面火傷してしまうリスクが付きまといます。また衣服に炎が燃え移る事故も度々発生しているので、キッチンのバリアフリー化では、加熱調理方式の見直しも視野に入れるべきです。
キッチンをバリアフリー化するポイント
キッチンを効果的にバリアフリー化するには、いくつかのポイントがあります。使う人の立場に寄り添った対応が、バリアフリーリフォームには欠かせません。
高齢者が楽に使える
高齢者が安心してキッチンを使うためには、安全対策と火による事故の予防がキーポイントです。まずは高い位置に手をのばす動作をなくし、安全な移動をサポートする手すりを付けます。また滑りを防止する床材に変えることも有効ですが、滑り止めの効果が高すぎるとつまずいてしまうので危険です。
さらに加熱調理での火傷にも注意が必要です。ですからガスコンロを使う場合は、過熱や消し忘れ防止などの安全装置が付いている器具を使いましょう。できるだけ火傷や火災のリスクを低くするなら、IHクッキングヒーターの設置が有効です。
車椅子でも問題なく使える
車椅子でキッチンを使うためのポイントは、シンクの下に膝が入るスペースを作ることです。調理台を低めに設定して浅型のシンクを設置すれば、車椅子でも調理台に身体を近づけて調理ができます。
バリアフリー対応のシステムキッチンでも、車椅子で問題なく使える仕様になっていますが、残念ながらコンロの下については空間が設定されていません。よってキッチンの下のスペースを最大限にするのであれば、オーダーメイドのリフォームが最適です。
調理器具や収納スペース
キッチンのバリアフリー化では、上部に設置されている収納スペースや、換気扇のスイッチにも使いやすさが求められます。電動で昇降する棚やワゴンタイプの収納ボックス、リモコン式の換気扇にリフォームすれば、高さ対策はクリアできます。
また車椅子に座った状態では、床から上方に155cmまでが手の届く高さなので、スイッチ類は140cm程度の範囲に設置するのがベストです。
転倒防止対策
キッチンでもバリアフリーの基本対策は欠かせません。まずは滑って転倒しないために、床材を滑りにくいタイプに変更しましょう。さらにクッション性が高い素材にすれば、万が一転倒しても大きなけがを防いでくれます。
また足腰が弱っている状態では、移動する時にバランスを崩しやすいため、手すりを設置して転倒を防止しましょう。バータイプの手すりをシンクの前に取り付けるだけで、立ち上がりや移動の負担が軽減されます。
キッチンをバリアフリーに改修するには
キッチンをバリアフリーにリフォームすると決断しても、どこまで対応すればいいか悩むところです。予算の関係もありますので、自分のできる範囲でプランニングすることをおすすめします。
部分的な改修
あまり予算をかけたくないのであれば、現在使っているキッチンをベースにした、部分的なリフォームから始めましょう。単体のユニットで取り付けられている吊戸棚や換気扇、IHクッキングヒーターであれば部分的な改修が可能です。
電動昇降式の吊戸棚や換気扇の場合、現在設置されているものと寸法が同じであれば、電気配線を含む工事だけで取り付けが可能です。またリモコン付きのタイプを選ぶことで、手元の操作だけで利用できるようになります。
IHクッキングヒーターの設置作業には、電気配線を含む据付工事に加えて、ブレーカーのアンペア数の変更やガスの供給を止める手続きが必要です。なおIHクッキングヒーターを設置するタイミングで、オール電化の導入を同時に済ませると、光熱費が抑えられるメリットもあります。
全面改修
バリアフリーのメリットを活かすのであれば、キッチンの全面改修工事をおすすめします。トータルバランスを重視した仕上がりになるので、調理作業全般の負担の解消が実現できるでしょう。
システムキッチン
住宅設備メーカー各社では、それぞれ特色を持ったバリアフリー仕様のシステムキッチンをラインナップしています。シンクの下に格納できるカートで収納やゴミ捨てをサポートしたり、照明や換気扇のスイッチを一か所で操作できたりと、使いやすさを重視した設計のキッチンです。
収納や食器洗い乾燥機、換気扇やタッチレスの蛇口などをバランスよく配置しているので、効率の良い調理ができるようになっています。
フルオーダーメイド
システムキッチンでも十分にバリアフリー機能が備わっていますが、万人向けの仕様になっているため、物足りなさを感じてしまいます。しかしフルオーダーメイドのバリアフリーキッチンにすれば、自由設計による専用のキッチンが出来上がります。シンクや調理機のレイアウトにほぼ制限がないので、スペースに余裕があればどんな配置でも思い通りです。
ただし一般的な工事とバリアフリー工事は違いがあるので、専門知識やアイディアがなければ、機能性に富んだバリアフリーキッチンは作れません。したがって工務店に相談する際は、バリアフリーに関する施工の実績を事前に確かめましょう。
キッチンをバリアフリーにする費用と相場
リフォームでキッチンをバリアフリー仕様にするには、まとまった出費を覚悟しなければいけません。予期していない追加工事で予算オーバーになる可能性もあるので、できるだけ余裕を持った予算計画が必要です。ただ予算不足で我慢している方も少なからずいるはずです。
バリアフリーのリフォームでは、介護保険による補助や各種減税によって負担を減らせる可能性があります。資金に不安がある方は、上手に活用して負担を減らしましょう。
IHクッキングヒーターに交換
部分的なバリアフリーリフォームの工事では、IHクッキングヒーターに交換するケースが多く採用されます。本体設置の他に、電気配線やブレーカーの工事、200Vへの変更やガスの閉栓などが必要で、6万円から11万円の工事費となります。
IHクッキングヒーターの本体価格が5万円から16万円程度ですので、工事費と合わせて11万円から27万円が総額になります。ただし電気配線の長さや設置位置の改修によって、工事費が変化するのでご注意ください。
収納スペースの改修
キッチン収納のバリアフリー化では、吊戸棚に昇降機能を持たせることが一般的です。現在使っている棚に昇降機能を追加するタイプや、吊戸棚一式を昇降機能付の棚に丸ごと交換するタイプがあります。
手動で昇降させるタイプの戸棚を追加するのであれば、工賃込みで4万円から5万円で取り付けが可能です。電動タイプの吊戸棚と入れ替える場合は、電気配線と取り付け工賃込みで7万円前後あれば設置が可能です。
システムキッチンで丸ごとリフォーム
システムキッチンは入れ替えるだけで終わりと思われがちですが、キッチン全体をフル改装する程の工事になります。養生から仕上げまでに6種類の工事が行われ、7日から10日程で完成します。ただし今まで使っていた建材の修復が必要な場合は、工期が若干伸びる覚悟が必要です。
またオプションパーツの取り付けなどで増額する場合がありますが、概ね工事費込みで70万円から170万円が相場になります。
フルオーダーメイドでこだわりのリフォーム
フルオーダーメイドのリフォームの魅力は、なんといっても既製品では得られない使いやすさではないでしょうか。コンセントやスイッチの位置からはじまり、キッチン全体のレイアウトに至るまで、バリアフリー性に富んだこだわりのキッチンが手に入るでしょう。
しかし満足度が高い分リフォーム費用も割高になります。使用する建築資材によって違いはあるものの、70万円から200万円ほどが費用の相場です。バリアフリーのリフォームに慣れていない工務店の場合、完成度が低くなる可能性がありますので、慎重に依頼先を選びましょう。
まとめ
身体機能が低下すると、調理が負担になってキッチンから遠ざかってしまいます。料理好きの人にとっては、美味しい食事を作れなくて、フラストレーションが溜まってしまうでしょう。しかしキッチンをバリアフリー化すれば、いつまでも現役で調理ができる喜びを味わえます。
座ったままの調理を基本とした機能や環境整備が充実しており、高齢者や車椅子の方でも安心して使えるキッチンが手に入ります。システムキッチンはもちろんのこと、オーダーメイドのバリアフリーキッチンも多機能化が進んでいますので、公的補助や減税制度を上手く使ってキッチンのバリアフリーリフォームを実現してください。