屋根勾配とは屋根の傾斜のことをいいます。傾斜の角度が違うと耐久性、防水性、デザイン性、コストが変わってきます。この記事では屋根勾配を知るための基礎知識と勾配の決め方、使用できる屋根材などをお伝えします。
勾配は屋根の傾斜のこと!どんな役割がある?
勾配とは傾斜のことです。屋根事態には排水能力はありませんので、屋根に傾きをつけることで雨が下に流れて雨樋で排水させることができます。
屋根勾配はどんな種類がある?
屋根の勾配は様々な角度で設計されており、使用できる屋根材も違います。以下に勾配の特徴と屋根材、優れているところと劣っているところをお伝えします。
急勾配
勾配は名前の通り傾斜が急な屋根となっています。
特徴と角度
急勾配は6寸以上の勾配を指し、急な傾きとなっているため雨が流れやすくなっています。屋根工事をする際は足場の他に屋根足場という屋根作業用の足場をかける必要があり、足場の費用が割高になります。
使用できる屋根材
- 瓦
- スレート
- ガルバリウム
- アスファルトシングル
- 立平
急勾配の屋根はどんな屋根材でも葺くことができます。現在の住宅ではスレートやガルバリウム、アスファルトシングルなど薄く軽量な屋根材を使っているところが多いです。
優れているところ
- 傾斜による水はけがよく、雨漏りのリスクが低い
- 屋根面積が大きくなり、屋根裏スペースが確保しやすい
- 屋根裏スペースが広くなり、断熱性が高くなる
- 大きな屋根で存在感があり、デザイン性にも優れている
劣っているところ
- 屋根面積が増えるため、コストが高くなる
- 屋根足場を設ける必要があるため、足場費用も割高になる
- 屋根が大きいため、風圧の影響が大きくなる
- 傾斜により雪が流れやすく、落下しやすい
傾斜が急だと屋根に積もった雪を下に落としてくれますが、雪が落ちてきて危険という見方もありますので必ずしも積雪地域に適しているとは限りません。
並勾配
一般的に採用されているのが並勾配です。
特徴と角度
3〜5寸ほどの屋根を並勾配と呼んでいます。平均的な傾斜の屋根で普及率も高いです。作業も屋根の上で行えるので屋根足場をかける必要はありません。水はけも問題なく、デザイン、コストなど全体的なバランスに優れます。
一般的に採用されているため、不具合などの問題に対してもモデルケースになり対策が立てやすいです。
使用できる屋根材
- 瓦 ※4寸勾配以上
- スレート
- ガルバリウム
- アスファルトシングル
- 立平
ほとんどの屋根材を使用することができますが、瓦は4寸勾配以上となります。
優れているところ
- 水はけ・コスト・メンテナンス性のバランスが良い
- 屋根の上での作業が可能なため 、屋根足場が不要
- 屋根材の制限がない
- 一般的な勾配のため 、デザインの調和性がある
劣っているところ
- 一般的な屋根なため平均的な印象を受ける ( デザインに個性を感じさせない )
緩勾配
緩勾配(かんこうばい)は傾斜の緩い屋根です。
特徴と角度
緩勾配は3寸以下の傾斜を持つ屋根です。緩い勾配のため雨は流れにくいですが、積雪地域においては雪が落下しにくいため落雪防止の安全性を確保することができます。
また、傾斜が少なくなるため高さが低くなり屋根面積も少なくなります。面積数が少なくなることで施工やメンテナンスコストを抑えることができます。
使用できる屋根材
- スレート ※2.5寸勾配以上
- ガルバリウム ※2.5寸以上
- アスファルトシングル ※2.5寸以上
- 立平 ※0.5寸勾配以上
緩勾配に使用できる屋根材は限られています。一般的に使用されているスレートやガルバリウム鋼板、アスファルトシングルは少なくとも2.5寸勾配以上ないと葺くことができませんので注意しましょう。勾配が2.5寸を下回る場合は金属屋根の立平葺きになります。
優れているところ
- 屋根面積が少ないため、コストを押さえられる
- 傾斜・面積が少ないため、風の影響を受けにくい
- 施工性が良いため、屋根足場が不要
- 傾斜が緩いため、雪が落下しにくい
緩勾配は落雪防止につながりますが、屋根に雪が残るという観点から屋根の防水性能には気を配っておく必要があります。屋根に積もった雪は少しずつ溶けていくため、長い時間屋根に水が触れている状態となります。
水に触れる時間が増えることで屋根材やルーフィングの劣化を早めるため、点検とメンテナンスは定期的に行っておきましょう。
劣っているところ
- 傾斜が低いため水が残りやすく、雨漏りのリスクが高い
- 汚れや雨水の流れが悪く、耐久性が劣る
- 対応できる屋根材が少ない
屋根の勾配を決める基準
ここでは勾配を決める基準をお伝えしていきます。
建築基準法に基づく建物高さに合わせて勾配を決める
勾配は建物の高さに合わせて決めることがあります。建物には日影規制や道路斜線、北側斜線、隣地斜線など高さの制限が建築基準法で定められています。
もし高さ制限の斜線にかかる場合は、高さを下げないと建物を建てることができません。高さ制限は敷地や周辺環境によって変わりますので、建物を建てる敷地に合わせて勾配を決めていきます。
外観デザインを基準にして屋根の勾配を決める
屋根勾配は建物の外観デザインに大きく影響します。傾斜を大きくすると屋根面積が大きくなるため存在感が増し、建物の個性をだすことができます。また、屋根の傾斜は葺く屋根材で印象がまったく変わるため、デザイン性を重視して決めることもあります。
使用する屋根材と防水面で屋根の勾配を決める
屋根勾配の役割を踏まえると防水性を無視して勾配を決めるということはありません。多雪地域の場合は積雪も考慮する必要があるため、地域環境の特性に合わせて勾配を決めていくことが大切です。
また、屋根材は使用できる勾配が決められているため、建主の要望する屋根材に合わせて屋根勾配を決めることもあります。
屋根勾配の表記と確認方法
屋根勾配の表記は複数ありますので以下にてお伝えしていきます。
屋根勾配の表記は寸法勾配・分数勾配・角度勾配の3つ
屋根勾配は以下の表記の仕方があります。
【寸法勾配】
尺貫法「寸」で表した表記で、1寸=約3.03cm、10寸=約30.3cmとなります。屋根勾配は3寸、5寸と表記されていることが多いです。
【分数勾配】
分数勾配は図面上に表記されることの多い表記の仕方です。数値は「寸」で表し、水平距離に10に対して高さを表示します。6寸勾配の場合は6/10と表記されます。
【角度勾配】
角度勾配は勾配の三角形の内角を表す角度で、3寸勾配=16.7°、5寸勾配=26.6°と表記しています。
屋根勾配は建築図面に書かれている
屋根勾配を確認したい時は建築図面に書かれています。仕様書にも記載されていることもありますが、確認しやすい図面は立面図です。立面図は建物を真横から見た図で屋根勾配が表示されています。その他には建物の断面を載せている断面図にも勾配の表示があります。
屋根の勾配は変更できる?
勾配を変更することは可能です。ただし屋根の構造を一度解体して新しく組み直すため、工事日数が長期になり、工事費用も高額です。勾配の変更を検討しいている方は、建築基準法に基づく建物高さを踏まえて屋根の再設計が必要です。
建物が建つ敷地や隣接する道路など環境によって制限が変わりますので、設計士の方に相談して進めていきましょう。
屋根勾配の変更はリスクが大きい
勾配を変更する工事は非常にリスクが高く、以下の理由があります。
- 工事期間中は屋根がない状態になるため厳重な養生は必須
- 屋根がない状態で無人となる期間が長い
- 水が侵入すると構造体が劣化し耐久性を落とす
- 高さ制限など条件をクリアするのが厳しい
最大のリスクは屋根がない状態になるため雨が建物の中に入ってくる恐れがあることです。工事期間中は雨が入ってこないように常に養生をして防がなければいけないですが、強い雨や台風など、どんな状況下でも柔軟に対応できる業者であることが重要となります。
屋根の勾配を知っておいた方がいい理由
屋根勾配を知っておくことで、後々必要となるメンテナンスの際に役立ちます。屋根勾配を知っておいた方が理由を以下にまとめましたのでご覧ください。
- 使用できる屋根材がわかる
- 屋根材の選定の際に業者の言いなりにならない
- 屋根足場の有無など必要か不要か自力で判断ができる
- 屋根面積が大きいか小さいか大方検討つくことができる
- メンテナンスの費用の内訳を理解することができる
屋根勾配の注意点
屋根勾配にはいくつか注意するポイントがありますので、以下にて一つずつお伝えしていきます。
勾配が急なほど屋根面積は広くなり工事費用も高くなる
屋根勾配が急なほど屋根面積が広くなります。屋根面積が増えると塗装工事や屋根工事の費用も高くなります。屋根勾配があると見栄えは良くなりますが、後々必要となるメンテナンスの費用も高くなることを考慮しておきましょう。
屋根勾配によって水はけに違いがある
勾配が緩いほど水はけは悪くなり、勾配が急なほど水はけが良くなります。屋根面に水が残ると屋根材やルーフィングの劣化につながりますので、防水性を考えて勾配を決めることが大切です。
屋根からの雨漏りは室内や外壁、屋根、柱などの構造体を劣化させ、耐久性を落とす原因となります。屋根のデザインも大切ですが、建物の耐久性を考慮することも大切です。
屋根勾配は地域によって違いがある
台風の多い地域や雪の多い地域など、建物が建つ地域環境によって設計する屋根勾配は違います。台風の多い地域に急勾配の屋根を設けてしまうと風圧の負担が大きくなるため適切ではありません。
耐風性を考えると勾配は少ない方が良いので、緩勾配、並勾配、または屋根が水平な陸屋根が適切です。地域の特性によって適切な屋根勾配が違うことを押さえておきましょう。
屋根ごとに勾配が異なる建物もある
勾配の違う屋根を複数設けている建物もあります。建物の外観を考慮して同じ屋根材を葺いていることが多いのでそこまで問題ではありませんが、葺き替え時のことも考えて工事前に勾配を把握しておくといいでしょう。
違う勾配の屋根が設けられる理由は空間の確保や高さ制限が影響していることがあるからです。
屋根勾配を知るとリフォームの時にも役立つ
屋根の勾配は急勾配と並勾配、緩勾配の3種類に分類できます。各勾配には対応する屋根材が違うため、リフォーム時には注意しておきましょう。コストを抑えたいという方は平均的な傾斜の並勾配がお勧めです。