バリアフリー

玄関バリアフリー解説|家の出入りをもっと楽に

玄関はお客様を迎え入れる大事な場所ですから、誰にでも気持ちよく入って頂きたいものです。ですからバリアによって出入りが妨げられる作りは、できるだけ避けるようにするべきです。しかしどのような対策をどの程度まですれば良いのか、わからない方も多いのではないでしょうか。

この記事では、玄関のバリアフリー化を様々な角度からお伝えします。バリアフリーのポイントや外せない重要事項、施工事例や金額の相場など、玄関のバリアフリーの概要を説明しています。この記事を参考にして頂き、高齢者や足腰の弱い方、車椅子でも使いやすいような素敵なバリアフリー玄関にしてください。

玄関をバリアフリーにするポイントとは

玄関のバリアフリー化は至ってシンプルで、段差の解消がメインです。どうすれば段差を解消できるか、解消できないのであればどのような補助が必要かを考えます。玄関だけでなくアプローチの対策も必要なので、訪れてから家に入るまでの工程を、総合的に考える必要があります。

アプローチの障害も取り除く

家の出入りをバリアフリーの視点から考える時、どうしても玄関の扉や玄関内部の改修に目が行きがちですが、玄関までの道のりも重要なポイントです。アプローチをバリアフリー化しているだけで、来訪者の印象も変わるでしょう。

アプローチ部分の障害を取り除く場合、玄関前の敷地の面積を考慮した対策が必要です。敷地の広さに余裕があれば一般的な外構工事で十分ですが、都市部の場合は限られた敷地での対応になるので、機器の設置を前提とした工事を検討しなければなりません。

出入りの負担を軽減

玄関のバリアフリー対策では、将来的に車椅子での利用を考慮した対策が必要になります。特に高齢者が利用する場合は、加齢とともに歩行機能が低下しますので、先を見越したリフォームを心掛けるべきです。

玄関からの出入りを面倒に感じてしまうと、外出する意欲が失われてしまいます。開放感のある玄関間口や、開閉が楽な玄関扉にするだけで、身体的な負担の軽減だけでなく心理面にも良い影響を与えてくれるでしょう。

転倒を防止する

玄関は外の環境変化から影響を受けやすいので、転倒するリスクが高い場所です。靴底に付いた雨やホコリによって滑りやすくなるので、物理的な転倒防止対策が必須となります。床を滑りにくくするだけでなく、バランスを崩さないために手すりを設置するなど、小さな子供や足腰の弱い高齢者を転倒から守る工夫が大切です。

段差対策

玄関の周辺は段差の宝庫といっても過言ではありません。玄関ポーチから玄関の土間、土間から玄関フロアに上がるまで、複数の段差が存在します。バリアフリーの基本は段差を解消することですが、間取りや敷地の面積などの影響で、完全に排除できない場合もあります。

玄関は屋外と接する場所ですので、安易に段差を排除すると外からの汚れを室内に招き入れてしまいます。よって行動の障害となるバリアを排除しつつ、できる限り屋外と屋内を区別する対策が必要です。

玄関のバリアフリー化に必要な要素とは

玄関をバリアフリー化するためには、高低差の解消で出入りのしやすさを確保し、転倒を防止する対策が必要です。全ての要素がバランスよく対応されてこそ、バリアフリー化の効果が発揮されます。しかし敷地の制限などにより、実現できない項目があるのも事実です。

もし一般的な対策が困難な場合でも、バリアフリー化を手助けしてくれる代替案があるので心配いりません。

玄関アプローチの改修

地面と床の高さを緩衝する場所として、玄関ポーチが設けられています。一般的には30cm 程度の段差があるため、車椅子での利用を考えるとスロープが必要です。なおスロープには適正な勾配が設定されているので、5度程度の角度を目安にするとよいでしょう。

スロープの幅にも参考基準が設けられていて、車椅子で上り下りするには最低でも1m幅が推奨されています。また玄関ポーチまでの距離が3mを越える場合は、手すり付きのスロープにすることが、安全確保に役立ちます。

また玄関先にスロープを設置する場合、降雨や降雪の対策として軒先の延長や軒の増設も検討するとよいでしょう。

玄関間口と扉の変更

玄関の間口を広げるのであれば、扉は引き戸にするのが一般的です。吊り下げ式の引き戸にすれば、少しの力で開閉ができるだけでなく、足元のレールを使わないので段差の解消にもつながります。引き戸を吊り下げ式にしたり、レールを埋め込んだりすれば複数のバリアフリー化が同時に行えます。

ただし玄関の間口を広げるとなると、大がかりな改修工事を覚悟しなければいけません。また開き戸を引き戸に変更するには、構造上の違いがあるため扉の枠まで付け替える工事が必要です。

滑りにくい床材の選定

雨やホコリによる転倒を防ぐため、階段やスロープだけでなく玄関ポーチや土間なども、滑り止めの対策が必要になります。バリアフリー対策として様々な素材がありますが、表面に防滑加工が施されていれば大丈夫です。

なお防滑の床材は滑りにくくすることが目的ですが、あまりにも滑りにくい床材を使うと、つまずいて転ぶことがありますので注意が必要です。

土間から床に上がりやすくする

一般的に土間から床までは30cm程度の高低差があります。専門用語で上り框(あがりかまち)と呼ばれていて、土間からの汚れが床に及ばないために設けられています。機能面を考えると安易に取り除けないので、昇り降りを補助する改修や段差を解消する器具が必要です。

もちろん土間のスペースによって対策は変わります。改修工事が困難な場合は、手すりの設置をベースとして、踏み台やベンチをなどの補助器具で負担を軽減する工夫が必要です。

バリアフリー化の施工事例

玄関のバリアフリーのポイントや要素が理解できたとしても、具体的なイメージにはつながりにくいと思います。そこで実際の事例を紹介しますので、ご自身の状況と照らし合わせてイメージを膨らませてください。

フロアリフトの設置

スロープを設置する場所がないアプローチでは、スロープに代わって高低差を解消するためのフロアリフトを設置します。車椅子を乗せた天板が昇降するので、道路から1メートル以上の高さのある玄関や、階段式の玄関ポーチのへのアクセスが各段に改善されます。

防水対策されていますので、場所を選ばずに設置が可能です。サイズのバリエーションも複数用意されていますので、最小サイズを使えば土間と上り框の段差を解消できます。

腰掛けるスペースの確保

足腰の弱い方が履物を着脱する行為は、バランスを崩しやすいため転倒の原因になります。よって身体の負担を軽減し、ケガのリスクを抑えるためには、腰掛けるスペースの設置が効果的です。玄関の土間に十分なスペースが確保できる場合は、靴の収納を兼ねた収納ベンチを置くと便利です。

ベンチを置けるスペースが確保できない場合、壁面に畳めるタイプのベンチを取り付けます。使わないときはコンパクトに収納できるので、玄関のスペースを確保しながらバリアフリー化ができる優れものです。

上り框のバリアを排除

玄関のバリアフリー化で最も難易度が高いのが、上り框の段差対策です。上り框を設けずに、土間と床の段差を解消する施工もできますが、屋外の汚れが床まで及ぶのであまりお勧めはできません。

したがって玄関をバリアフリー化するとしても、屋外と屋内を区別するために上がり框は外せません。なお上り框にはバリアフリー化の基準があり、戸建てでは18cm、集合住宅では11cmを越えない高さが目安となっています。

手すりの設置

腰掛けるスペースの設置や上がり框の高さも重要ですが、転倒防止対策として手すりの設置に勝るものはありません。玄関に手すりを設置する場合は、縦と横の手すりを複合的に取り付けます。縦の手すりは履物を着脱するときにつかまり、横の手すりは土間と床の伝い歩きをサポートします。土間と床の手すりは、設置する高さを上り框の高さの分だけ変更します。

手すりの設置はアプローチでの転倒防止にも役立ちます。玄関ポーチ前の階段や距離の長いスロープなどに設置することで、歩行や車椅子での移動が安全になります。

バリアフリー化に必要な費用

玄関のバリアフリーに必要な費用を項目別に紹介します。一般的な相場ですので、実際の工事では金額が変わる可能性があります。なお記事中の金額は、おおよその目安として参考にしてください。

アプローチの改修工事

アプローチの改修工事によるバリアフリー化では、スロープの設置がメインとなります。設置する場所の地ならしや残土の処理、下地コンクリートの敷設と床材の貼り付け、手すりの設置などの工事で、40万円から60万円の費用が必要です。

土間コンクリートを打ちっぱなしにするスロープでは、1㎡あたり2万円から3万円が相場ですので、床材や手すりを付けなければ安価でスロープが出来上がります。ただしあくまでもバリアフリー化が目的ですので、滑りやすい打ちっぱなしのコンクリートはおすすめできません。

足元の防滑

スロープや土間の防滑対策には、床面の滑り止めが必要不可欠です。一般的にはタイルやコンクリート、天然石やレンガなどが滑り止め用の床材として用いられます。一番リーズナブルな素材は表面に凹凸を付けたコンクリートで、1㎡あたり1万円から1.6万円が相場です。

レンガでの施工も比較的お手頃な価格設定で、1㎡あたり1万円から2.8万円となります。洋風の外観であればタイルが使われ、1㎡あたり1.2万円から5万円、和風建築では1㎡あたり1.6万円から2.6万円で天然石が滑り止めになっています。

間口の拡大と扉の変更

扉を引き戸に変更して間口を拡大する場合、ミドルクラスの扉本体で15万円から30万円、工事費でも同額が必要ですので、総額30万円から60万円の施工費が必要です。なお扉の枚数や戸袋の有無、レールのタイプによって価格は変動します。

また間口を広くする工事では、壁を削って扉の枠を変えるために、施工にはおよそ7日から10日程度必要です。

上り框対策

上り框と土間の高低差を緩和するにはスロープの設置が有効ですが、土間にスペースを確保できるケースに限定されます。費用は15万円から20万円程度です。一方で土間のかさ上げは施工費が20万円から30万円と割高ですが、土間の広さに関係なく高低差を根本的に解消できる対策です。ちなみに踏み台の設置は0.5万円から2万円なので、安価で現実的な上り框の段差対策と言えます。

最もカンタンで有効な手段である手すりの設置は、履物の着脱時に使う縦横兼用型であれば1万円程度、縦と横が一体化のL字タイプでは2万円です。

玄関のバリアフリーをお安くするには

バリアフリー化には経済的な負担が伴います。しかし施工費を安くするための価格交渉は、部材の性能やバリアフリー機能が不十分になる恐れがあるのでおすすめできません。けれども経済的な負担は減らしたいですよね。そんな時こそ公的扶助を活用すれば、支出を気にすることなく完成度の高いバリアフリーの玄関にリフォームできます。少々面倒な手続きはありますが、積極的に活用しましょう。

介護保険の助成を使う

バリアフリー化を支援する介護保険の助成制度は、高齢者住宅改修費用助成制度が最もポピュラーです。助成金額の上限は20万円と決められていて、そのうちの9割を介護保険が負担してくれます。要介護や要支援の区分が変わらなければ、一度きりしか利用できない制度です。

被保険者の状況と工事の内容について支給条件が設定されているので、被保険者の介護認定や工事内容が支給条件と合致しているか、事前に確かめてください。なお工事着手前の申請となっているので間違えないようにしましょう。

特別控除の活用

玄関のバリアフリー化に伴う改修では、住宅特定改修特別税額控除が適用されます。この制度は、該当するバリアフリー工事について、確定申告で所得税の減税を申告します。資金調達の方法によって減税される期間が異なりますが、減税総額は同一です。たとえば控除額が10万円であれば、一括で控除されるか1年あたり2万円を5年間控除されるかの違いです。

また申請するために必要な書類を7種類準備しなければいけないので、面倒なことが嫌いな方には少々ハードルが高いと言えます。

各種減税制度

玄関を工事でバリアフリーにすると、固定資産税の減額や住宅ローン減税が受けられます。一律で減額されるのではなく、工事の金額で変わりますので、居住地区の役所で事前に確かめてください。

住宅ローンを使ったバリアフリー化でも、所得税の減税が受けられます。しかも10年間にわたって借入残金の1%分を所得税から減額してくれるので、工事費が高額になるほど恩恵を受けられる制度と言えます。ただし工事費の限度額は、100万円超で4,000万円までですのでご注意ください。

自治体から助成金を受け取る

各地方自治体でもバリアフリーのリフォーム向けに助成金を準備しています。高齢者住宅改修費用助成制度の支給額に準ずる自治体や、独自基準で運用する自治体もあり、対象者の数や財政事情により様々です。

また助成金額だけでなく、適用条件についても自治体によって異なりますが、概ね国の制度より厳格な場合が多くなります。さらに他の制度との併用が認められない可能性もあるので、事前に確かめることを忘れないでください。

まとめ

体力があるうちは、階段や段差など気にも留めずに活動できます。しかし足腰が衰えてくると、少しの段差や階段の昇り降りが辛くなるので、玄関のバリアが自宅への出入りを妨げてしまいます。また対策が遅れてしまうと、転倒や転落によって大けがをするかもしれません。

しかしバリアフリー化の必要性はわかっていても、比較的大がかりな工事もあるため、費用の面で二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょうか。自己負担が心配であれば、介護保険などの公的扶助を使う方法もあるので、適用されるかどうか確かめてみましょう。親のためだけでなく自分の将来のために、早い段階で玄関のバリアをフリーにしましょう。