お風呂をバリアフリー化する必要性をご存知でしょうか。誰でもお風呂場で滑ったり転んだりした経験はあるはずです。足腰が丈夫でも起こりうる転倒事故ですから、足腰が弱った高齢者ではリスクがさらに増してしまいます。
お風呂のバリアフリー化は、将来の高齢化対策だけでなく、一次的なケガや病気などの時にも役立ちます。まだ大丈夫と思っている方も多いと感じますが、是非ともこの記事を参考にして、早めの対応に役立ててください。
お風呂はバリアであふれている
湯船に浸かってほっと一息できる入浴タイムですが、高齢者にとっては危険が多く、ひと風呂浴びるにも体力を使います。誰もが快適に使えるお風呂を目指すのであれば、高齢者が苦労している原因を知る必要があります。
それではお風呂のバリアについて4項目紹介しますので、バリアフリー化の参考にしてください。
出入り口でつまずく
一般的な浴室の床は、浴室内から外に水を漏らさないために、脱衣所より10cm程度低くなっています。また脱衣所の床と同じ高さでも、敷居を高く作って水の流出を防止していますが、高齢者にとっては危険なバリアとなっています。
バリアフリー対策として望ましい段差の高さは、2cm以下となっています。それに従って浴室と脱衣所の段差も低くしたいところですが、脱衣所の床に水が漏れだすリスクがあるので、安易なリフォームは禁物です。
滑って転倒する
入浴時の浴室は床が水分で常に濡れているため、足腰の弱い高齢者にとって滑りやすく危険な場所です。また石鹸やシャンプーの泡が流れ切らずに残っていると、転倒のリスクがさらに増加します。
転倒を予防するためには、床の滑り止め対策はもちろんですが、床の水切れや水はけにも気を配らなければいけません。もちろん床以外での転倒防止策も必要です。
浴槽への出入りが困難
浴槽に出入りするには、45cmから60cm程の高さを越えなければいけません。よって足を上げる動作でバランスを崩し、転倒する危険性があります。浴槽内での転倒は溺れる可能性もあるので、高低差を解消する改修や、転倒を防止する器具の設置は必須です。
浴槽内での転倒防止策は、出入りの動作だけでなく、立ち上がりや座り込む動きにも必要です。足腰が弱ると膝の屈伸が辛くなるので、立ち上がりや座り込む動きでバランスを崩しやすくなります。深く屈伸しなくても湯船に浸かれる工夫が、身体への負担と万が一の事故を防いでくれるでしょう。
温度差による体への負担
冷えた体で湯船に浸かると、血流の増加とともに血圧が上昇します。急激な血圧の上昇は、頭痛や意識障害を引き起こし、最悪の場合は死に至ることもあります。このような状況は「ヒートショック」と呼ばれ、年齢が上がるにつれて温度差による影響を受けやすくなります。
特に冬場に置きやすいため、脱衣所から湯船に浸かるまでの温度差を少なくすることが大切です。脱衣所の断熱対策はもちろんのこと、脱衣所や浴室に暖房設備を入れるなど、できるだけ体温の変化を最小に抑える環境整備が必要です。
バリアフリーのお風呂にリフォームするポイント
お風呂をバリアフリーにすると言っても、特別なことをするわけではありません。バリアフリーの基本に従って、転倒などのリスクを取り除くだけです。ただし滑りやすい場所の対策になりますので、細心の注意を払う必要があります。
段差の解消と扉の変更
お風呂のバリアフリー化の第一歩は、何と言ってもリフォームの基本といえる段差の解消です。足腰が弱くなっている方は、段差を乗り越える動作でバランスを崩しやすいので、浴室の床に足をついた途端に転倒してしまいます。転倒のリスクを減らすためには、真っ先に段差をなくしてしまいましょう。
また万が一浴室で転倒して動けなくなった場合、浴室の扉が内開きになっていると、扉が倒れた人にぶつかって開けなくなります。そういったリスクを回避するためにも、浴室の扉は引き戸や折れ戸にするのがベストです。将来的に車椅子での利用も考慮するのであれば、間口を大きくとれる引き戸が理想的です。
手すりを設置する
お風呂のバリアフリーでは、手すりの設置は重要項目です。手すりを使って移動することで、バランスを崩さなくなりますので、転倒のリスクは大幅に減少します。また立ち上がりや座る動作を補助する役目もありますので、必要な場所に適切に設置しましょう。
脱衣所と浴室の安全な移動のために、まずは出入り口付近に手すりを設けます。洗い場や浴槽では、立ち上がりや座る動作の補助が必要なので、手すりを縦に設置します。また浴槽内で入浴姿勢を保つための手すりも必要です。
滑りにくい床材に変える
浴室の床材で最も滑りやすいのがタイルです。滑りやすい上に素材自体が硬いので、転倒したときのダメージが大きくなります。よって床面がタイル貼りの浴室は、できるだけ早く床面をリフォームするといいでしょう。ただし床面のリフォームといっても、大がかりな工事は必要ありません。
たとえば浴室すのこを設置すれば、入り口の段差問題と滑りにくい床材への変更を同時に解決できます。浴室床シートの場合は、クッション性や滑り止め効果が高い物を選んで、既存の床材の上から貼るだけで済みます。木製の床材も滑りにくいのですが、乾きづらい上にコストがかかりすぎるので、あまりおすすめできません。
浴槽の形状を変更する
浴槽に出入りする際の足腰への負担は、浴槽の形を変えるだけで解消できます。浴槽には和風と洋風と和洋折衷の三つの種類がありますが、浴槽内での姿勢や縁の高さを考慮すると和洋折衷が最適です。
浴槽内に腰掛けるスペースを設けたタイプや、縁の幅が広い浴槽もありますので、出入りの際の腰掛けとして便利です。また浴槽を床に埋め込む「半埋め込み式」を採用すれば、またぎやすい縁の高さが実現できます。
バリアフリーのお風呂に欠かせないアイテム
入浴をサポートするアイテムをご紹介します。入浴補助用具は、リフォームによるバリアフリー化では補えない部分を補助するアイテムです。なお購入やレンタル費は介護保険でまかなえます。
バスボード
バスボードは浴槽への出入りを、負担なく安全に行える補助用具です。腰掛けた状態で浴槽に出入りできるので、転倒や転落の危険性が低くなります。片方の縁だけに掛けて洗い場に側に設置する外掛け式や、両方の縁に橋渡しする内掛け式があるので、浴室の広さや使い方に応じて選びましょう。
体重をかけて使うので、強度や耐久性が基準を満たしている必要があります。使用時のぐらつきは転倒を招いてしまうので、設置場所の寸法や取り付けたときの安定性は事前に確かめましょう。
シャワーキャリー
自力で歩行できない方の入浴には、シャワーキャリーが欠かせません。入浴用の車椅子ですから、出入り口の段差がなければ、脱衣所から浴室までスムーズに移動できるので、介助者の負担が軽減できます。
椅子の仕様はメーカーごとに違うので、背もたれや肘掛けの形状、材質や座面のバリエーションなどをチェックして選びましょう。特に座面については、中央に穴が開いている便座型を選ぶと、お尻が洗いやすくなります。
浴槽内用椅子
浴槽内での立ち上がりや座る動作を楽にするには、浴槽内用の椅子の設置が有効です。浴槽に椅子を沈めて置くだけで、カンタンに設置が完了します。浴槽からの出入りの際に踏み台としても使えるので、バスボードの補助的な役割も期待できるでしょう。
いすの足には滑り止めのゴムや吸盤が付いているので、ズレたり滑ったりする心配はありません。メーカーによって寸法や仕様が違うので、自宅の浴槽で使えるサイズを選ぶようにしてください。
介護リフト
入浴用の介護リフトは天井から吊って移動するタイプと、浴槽に設置するタイプがあり、自力での入浴が困難な方に向けた入浴補助用具です。吊り上げ式の場合は、浴槽までの移動から出入りの動作を、全てリフト操作でサポートします。浴槽に設置するタイプは、湯船に浸かる上下動を電動でアシストする仕様なので、リフトに座るまでの移動は自力で行います。
省力化と利便性を兼ね備えた介護リフトですが、電動でアシストする高額機器ですので、利用には価格面がハードルになります。しかし介護保険のレンタルサービスを使えば、レンタル費用の1割を負担するだけで介護リフトが利用できます。ただし要支援や要介護の認定状況によっては、利用できない場合があるため注意が必要です。
お風呂のバリアフリー費用の目安
お風呂のバリアフリー化にはある程度の費用が必要になります。ただし介護保険を上手に使えば出費を抑えられるので、全額を負担することはありません。なお参考のために一般的な費用の相場をお伝えしますので、バリアフリー化の目安にしてください。
出入り口のバリアフリー
入り口の段差を改修する工事の場合、在来工法では5万円程度が相場です。滑りにくい床材に変更する場合は、別途8万円から30万円の費用が必要になります。また、すのこを敷いて段差を解消する方法では、段差の解消と同時に滑りにくい床に仕上げられます。洗い場の広さにもよりますが費用の目安は25万円です。
浴室のドアを改修する工事では、引き戸や折れ戸で違いはありますが、扉だけの交換であれば3万円から10万円が相場です。ただし開き戸と構造の違う引き戸への変更は、変更箇所が多いために高額になります。なお水場で使っている扉ですので、金属部分が腐食しているかもしれません。扉を解体した状況次第では、追加工事が必要になる可能性もあります。
転倒防止対策
手すりの設置は転倒防止対策の基本なので、出入り口や洗い場、浴槽付近や浴槽内部と、最低でも4か所は取り付けたいものです。取り付け位置や手すりの長さによって違いはありますが、概ね5万円程度が費用の相場になります。
床材の交換費用は、使う材質や施工の難易度によって異なります。浴室床シートの場合は、既存の床材の上にシートを貼り付ける施工なので、4万円から14万円で張り替えられます。在来工法で床だけを改修する場合は、8万円から30万円程度が相場です。
ヒートショックの解消
ヒートショックの解消では、全館空調にすることが一番の理想なのですが、導入にコストがかかりすぎるため現実的とは言えないでしょう。入浴時のヒートショックを防ぐためには、脱衣所と浴室の温度差を少なくすればいいので、暖房機能付きの換気扇や浴室乾燥機の設置が有効といえます。
浴室は換気扇や浴室乾燥機の暖房機能を使って温めます。脱衣所と浴室の温度差も解消したいので、セラミックファンヒーターやオイルヒーターで脱衣所を温めましょう。浴室乾燥機は工事費と本体で8万円から15万円程度、小型のセラミックファンヒーターは1万円以下での購入が可能です。
浴室の全面改修
古いユニットバスを新しいユニットバスに交換する場合、設置する下地がすでに出来上がっていますので、基礎部分まで手を入れる大がかりな改修は必要ありません。一般的には50万円から150万円が相場となっていますが、バリアフリータイプのユニットバスは割高になるので、プラスアルファーの出費が必要です。
在来工法の浴室からユニットバスへの改修であれば、80万円から300万円が相場になります。ユニットバスを設置する下地作りが必要なので、ユニットバス同士の交換より高額になり工期も長くなります。
出費を抑えてバリアフリーのお風呂に
介護保険と同様に各種補助制度や減税制度をうまく活用することで、経済的負担は減少します。手続きなどで面倒なことはありますが、順を追って対応すれば難しくはありません。上手に出費を抑えるために、自治体の窓口などに相談して、補助制度を有効に活用してください。
ライフサポート推進事業
ライフサポート推進事業とは、住宅を長持ちさせる取り組みに対して、国が工事費を一部負担してくれる制度です。既存の住宅をリフォームする工事が対象で、戸建て住宅では55㎡以上、共同住宅では40㎡以上といった住宅規模の制限があります。
お風呂のリフォームでは、非劣化対策としてユニットバスを設置する場合が対象で、工事費用の1/3を上限に最大100万円まで補助してもらえます。
介護保険の補助が適用
介護保険では様々なサポートが充実しています。バリアフリーのお風呂に改修する工事であれば、高齢者住宅改修費用助成制度を上手に使いましょう。助成範囲は最大20万円までは助成対象とみなし、助成対象の9割までを支給してもらえます。
他にも入浴補助用具の購入やレンタルでも介護保険が使えます。ただし対象外となる項目もありますので、購入やレンタルする前にしっかり確かめるようにしてください。
各種減税制度の申請
高齢化社会を背景として、バリアフリー化についての各種減税制度が充実しています。なお数10万円の還付を受けられる可能性があるので、減税制度をかしこく使いましょう。対象となるのは所得税や固定資産税の減税です。また住宅ローンを使ってバリアフリー化した場合は、年末のローン残高に応じて所得税の減税が申請できます。
地方自治体の補助を探す
国の制度を案内しましたが、地方自治体でもバリアフリー化を支援しています。3世代の同居や子育て世代への加算など、独自の優遇措置を取るケースもありますが、自治体によってまちまちです。
支給要件は概ね国の基準に近い場合が多いですが、支給後の居住期間を条件としている自治体もあります。国より厳しく審査されるので、支給要件を満たしていても必ず適用されるわけではありません。また予算内での補助なので、予算がなくなれば打ち切られるためご注意下さい。
まとめ
お風呂のバリアフリーといっても、やることは他のバリアフリー化と変わりません。転倒防止や動作の補助を基本とした、動きやすい環境を整えるだけです。ただし滑りやすい環境下なので、廊下やトイレよりも注意が必要と言えます。なお温度変化を意識した対策は、お風呂のバリアフリー特有と言えるでしょう。
お風呂をバリアフリーにしたくても、出費に悩んで決断できない方も多いことでしょう。しかし改修工事だけでなく、入浴補助用具の購入やレンタルも介護保険が負担を軽減してくれます。それ以外にも国や自治体の支援もありますので、介護の負担や将来の不安を少なくするために、できるだけ早いうちにお風呂のバリアをフリーにしましょう。