体力や気力が衰えていない状態では、階段の昇り降りは何の問題もありません。しかし身体機能が低下し始めると、歩く時に足を高く上げることが難しくなるので、階段を使った移動に精神的苦痛を感じるようになります。
階段のバリアフリーは、身体的な負担を軽減するだけでなく、生活する上での精神的な苦痛も和らげる効果があります。この記事ではバリアフリー化の効果や問題点、具体的な対策や経済的な負担を少なくする方法を紹介します。もし迷っているのであれば、是非とも参考にしてください。
階段のバリアフリー化がもたらす効果
階段をバリアフリー化する効果は、安全に昇り降りできるだけではありません。身体的負担が軽減された結果として、階段を使うことへの抵抗が減るので、生活範囲の縮小を防止する効果が期待できます。
移動の精神的苦痛を解消
個人差はあるものの、誰でも年齢を重ねるごとに足腰が弱くなります。2階建ての住居では階段の昇り降りは避けられませんが、昇降をサポートして階段を使いやすくすれば、精神的苦痛は緩和されるでしょう。
足の持ち上げや膝の曲げ伸ばしを軽減するには、階段の構造の見直しや機器を使って昇り降りできる環境を整えます。物理的なバリアの排除は昇り降りの動作を楽にするだけでなく、精神的なバリアを解消してくれる効果があります。
昇り降りの安全性を確保
高齢者は様々な危険と隣り合わせながら、階段の昇り降りをしなければいけません。段差でつまずいたり、滑ってバランスを崩したりしやすいので、十分な注意が必要です。気を付けていても事故は起きるものですが、環境を整えるだけで転倒や転落の危険性はかなり低くなります。
階段のバリアフリー化では、リスクを解消すると同時に危険を回避する仕組みを整える必要があります。滑る、つまずく、踏み外すといった危険性を排除し、常に身体のバランスを保てる環境を整備すれば、昇り降りの安全性を確保できるでしょう。
身体的負担の軽減
階段の昇り降りは、太ももやふくらはぎ、おしりなどの大きな筋肉を使いますので、筋力トレーニングやダイエットに活用されています。それだけハードな運動なのですから、筋力が弱っている高齢者の負担は相当なものになるでしょう。
階段を昇り降りする時は、手を使って体重を支えたり、身体を引き上げたりするだけで、足腰への負担は軽減されます。また段の高さを変えるだけでも、身体的な疲労の緩和に役立ちます。頻繁に昇り降りするのであれば、バリアフリー化による恩恵がより大きくなるでしょう。
階段をバリアフリーにする問題点
階段を安全に使うためのバリアフリーですが、機器の取り付けや想定外の使い方、工事費用でも意外な問題が起きることがあります。特にバリアフリーのリフォームで問題が起こりやすいので、十分な配慮や注意が必要です。
器具の設置で狭くなる
他のバリアフリーと同様に、階段のバリアフリーでも負担軽減のために器具が設置されます。手すりの設置は階段のバリアフリーの基本ですが、手すりが無い状態で設計された階段では、手すりを後付けした影響で幅が狭くなってしまいます。
また階段昇降機の場合は、レールの分で階段の幅が制限されたうえに、階段の昇り口や降り口に椅子が待機しているので、避けて通らなければいけません。未使用時は椅子を折りたためますが、階段の昇り口や降り口が壁から数十センチ分は狭くなります。
強度の確保で追加工事も
バリアフリー化を考慮しないで作られた建物では、壁面が補強されていないため、そのままの状態では手すりなどの器具を取り付けられません。人間が体重をかけますので、ある程度の加重に耐えられる強度が必要になります。
壁面内部の補強が無い場合でも、間柱や本柱に固定できれば問題ありません。しかし間柱や本柱に取り付けられない場合は、外側に補強板を取り付ける工事が必要になり、内装のバランスに影響を与えてしまいます。
子供にはバリアになることも
小さなお子さんのいる家庭では、補助用具の取り付け方によっては、ケガなどを誘発する可能性があります。よって高齢者向けのバリアフリー化では、子供の危険性も考えた対策が必要です。
階段は子供たちにとって格好の遊び場です。手すりにぶら下がったり滑り台代わりにしたり、昇降機の椅子を使って遊ぶこともあるでしょう。また階段の滑り止めは子供にとっても安全だと思いがちですが、つまずいて転倒する場合も考えられます。
子供の行動は予測不可能です。バリアフリー化がどのように影響するか分かりませんので、必ずリフォームのプロからアドバイスを受けてください。
バリアフリーの階段にする方法とは
階段のバリアフリー化では、転倒や転落を防止するとともに、身体的な負担を軽減するようにします。段の踏み外しを防止するために、位置を確かめながら昇れる工夫も必要です。自力での昇り降りが難しい場合は、機械の力を借りる選択も必要になるでしょう。
手すりを取り付ける
平成12年以降に建てられた住宅では、標準で手すりが一本は設置されています。しかし充実したバリアフリー仕様にするためには、利き手が昇りと降りで反対になっても手すりが使えるように、左右両方に手すりを付けましょう。また両手で体重を支えることで足腰への負担が軽減されます。さらに安全性を高めたいのであれば、握りバーの形状や滑り止め対策も視野に入れて選びましょう。
手すりのバリエーションはさほど多くありません。壁に取り付けるストレートやL字のバータイプ、使わないときに収納できる跳ね上げ式、踏み板に固定する据え置き式があります。
滑りを抑える
最もポピュラーな階段の滑り止めは、学校や公共施設の階段でよく見かける、踏み板の角に取り付けるタイプです。踏み板全体を滑りにくくするのであれば、表面にマットを貼り付ける方法もあります。どちらも数千円で購入できるので、DIY でも取り付けられます。
後付タイプの滑り止めは、価格も安くて手軽に取り付けられるのが魅力ですが、外れたりめくれ上がったりする危険性があります。不安な要素について、できるだけ排除したいのであれば、踏み板自体を滑りにくいものに交換することをお勧めします。
表面に特殊な加工を施した木製の踏み板や、滑りにくい塗料でコーティングされた踏み板と交換すれば、外れやめくれといった二次的要素による転倒を防げるでしょう。
照明の配置
階段を上部から照らす照明は、階段全体を明るくしてくれますが、足元に影ができて案外見えにくいものです。明るさが不足すると遠近感が失われますので、段差を踏み外す可能性が高くなります。
足元の照度不足を補うためには、人感センサーで点灯するタイプの照明を取り付けることが効果的です。なお最大限の効果を発揮させるため、50ルクス以上の照度を確保して、影ができにくい場所に設置してください。
段の高さや踏み板の寸法を変更
階段のバリアフリー化では、傾斜を緩くするために蹴上げ(段の高さ)を16cm以下にして、踏み面は30cm以上の設定を推奨しています。また段鼻(踏板の角)は突き出さない作りにして滑り止めを設けることも必要です。
ただし段の高さや幅を変えるためには、大掛かりな改修工事が必要です。階段全体が約90cm延長されるため、間取りにある程度の余裕が無ければ難しいでしょう。
階段昇降機の設置
自力での階段の昇り降りが困難な方のサポートに、階段昇降機が活躍します。階段に昇降用のレールと専用の椅子を取り付けるだけで、椅子に座ったまま階段の昇り降りが可能になります。
椅子の座面が回転するので、最上段での乗り降りでも負担がありません。階段の解体や改修などの特殊な工事は不要で、標準的な仕様であれば1日で完成します。
エレベーターの設置
ホームエレベーターは車椅子ごと上階まで移動できるのが魅力です。介助者の負担も軽減されるため、設置を考える方も多いと思います。しかしリフォームでエレベーターを設置するとなると、高いハードルを越えなければいけません。
最大のネックになるのは、設置と維持に必要な費用です。一般的に300万円から600万円弱の初期費用が必要で、年間の維持費は8万円から10万円程度ですので、資金に余裕が無ければ他の対策でのバリアフリー化が現実的です。
階段をバリアフリーにする費用相場
階段のバリアフリー化に必要な対策について、一般的な費用の相場をお伝えします。個々の事情により金額が上下する可能性がありますので、あくまでも参考として活用してください。
なお改修や機器の購入、機器のレンタルは介護保険でまかなえますので、自治体の窓口などで事前に相談することをおすすめします。
手すりの設置
手すりの設置工事自体は特殊な作業ではないため、補強板を設置する作業が追加されたとしても、取り付けは1日程度で終了します。ただし階段の構造によって作業費が変わるので注意が必要です。
ストレートタイプの手すりの設置では4万円から、L字やU字の階段では最低でも7万円が費用の相場になります。なお補強板を設置する工事では、この相場に数千円の材料費と工賃が上乗せされます。
滑らない床材
滑り止めを施している床材は、単体で販売されている商品が少なく、階段ユニットの部材として取り扱われているケースがほとんどです。表面を特殊な塗装やシートでカバーすることで、滑りにくい仕上げにしています。
ノンスリップ塗装を施した無垢のフローリング材では1㎡あたり1.5万円から5万円程度、表面に滑り止めのシートが貼られている踏み板は1㎡あたり4.5万円です。一風変わった焼杉の浮作りは、1㎡あたり2万円強で入手できます。
足元照明
人感センサーライトはホームセンターでも取り扱っていますので、自分で購入して取り付けることも可能です。ただし電池式の場合は充電が必要になりますし、100V 電源が必要なのであればコンセントの近くにしか設置できません。複数のライトを適切な場所に取り付けなければ意味がありませんので、専門業者に施工を依頼しましょう。
足元照明の取り付け費用は1か所あたり1万円からが相場になります。階段に複数個取り付ける場合は、1か所あたりの施工費が割安になる可能性があるので、見積もりを取って確かめてください。
階段の構造変更
階段の構造自体を変えるには、一度解体して組み上げなければいけません。傾斜を緩くするためには階段の全長を延ばす工事も必要です。複雑な構造の階段ほど費用がかかると思ってください。
直線の階段を新設する場合は、最低でも3日の工期で費用は50万円が目安になります。L字などの曲がり階段では1週間程度の工期で90万円、踏み板などの資材をリユースして移設した場合は、5日の工期で45万円となります。
昇降機器の設置
階段昇降機の設置には本体価格とは別に工事費が必要です。レールの長さや階段の角度によって特殊な工事が必要になるのでご注意ください。なお同じタイプの機器でも、屋外用の場合は防水対策しているので割高になります。
屋内の直線階段用でスリムなタイプは、標準仕様のレールと椅子本体が58万円程度で購入可能です。曲がり階段に設置するタイプにも標準仕様のレールは付属で、椅子本体込みで120万円から購入できます。
出費を抑えて階段をバリアフリーに
高齢化の支援策として、国や地方自治体が補助金や減税でバリアフリー化を後押ししています。複雑な手続きがありますが、国や自治体の担当者に相談すれば、問題無いでしょう。
万が一の時に手持ちの資金は必要ですから、可能な限り制度を利用して支出を抑えましょう。
介護保険で補助を申請
自宅をバリアフリー化して快適に過ごすために、利用できる公的補助をご存知でしょうか。介護や支援が必要な方の住環境を整える目的で、バリアフリー化を助成する介護保険の制度があり、高齢者住宅改修費用助成制度と呼ばれています。
この制度は被保険者本人が要介護や要支援であることが前提条件で、最大で20万円の助成範囲のうち9割が補助の対象です。しかし残念なことに、生涯で一度きりしか使えません。また様々な適用条件をクリアする必要があり、工事前の申請が必須となります。
特別控除や各種減税制度を活用
バリアフリー化には資金面のバックアップだけでなく、減税による支援も用意されています。所得税や固定資産税の減額、住宅ローン減税が該当しますが、申請者の状況によっては適用されないケースもあります。手続きは面倒ですが、上手に活用すれば何10万円もの還付金が見込めるでしょう。
概要としては、所得税の場合は工事費の10%を控除、固定資産税は工事が終わった翌年に1/3減額、住宅ローン減税ではローンの年末残高に対して1%が控除の対象です。
居住地域の自治体に補助金を申請
バリアフリーを支援しているのは、国の制度だけではありません。各地方自治体でも独自の施策でバリアフリーを支援しています。支援内容については自治体によって違いがあり、国の制度と同等の自治体や手厚く支援する自治体など、それぞれ独自の基準で運用しています。
申請から適用までの手続きも自治体によって違いますが、概ね国の制度より厳しい基準で審査される傾向にあります。そもそも適用外の可能性もありますので、制度の内容と適用条件を事前に確かめるようにしてください。
まとめ
身体能力が低下した状況で階段を昇ることは、体力的に大きなダメージを与えます。また階段での踏み外しや滑ることは、転倒だけでなく転落事故をも引き起こす可能性があります。そういった身体的な苦痛や恐怖心から、高齢者は階段を使わなくなってしまうのです。
生活範囲が狭まることは、本人だけでなく家族にとっても良いことではありません。できるだけ自宅内のスペースを有効活用し、負担や不安の無い生活を送るためには、階段のバリアフリー化は必須事項と言えます。介護保険や補助金制度を活用して、誰もが安心して住める住環境づくりをしましょう。